風の音に、羊やヤギの鳴き声が混る。
遠くの方でそれを見ている老人。
赤や黄色に地平を染めた、アマポーラやヒマワリは花の絨毯。
スペインの時の流れは人の歩みよりも遅く、
広い大地は古参者も新参者も共に抱擁し育んでいる。
5月から6月はスペインでは初夏、花と緑の一番多い季節です。
この度、画家の遠藤晴夫先生と共に行くツアーが美術世界の企画で行われました。
旅は首都マドリッドから始まり、ラマンチャのマンサナレス、アンダルシア地方のコルトバ、セビリア、グラナダと見学し、そしてもう一度ラマンチャに帰りトレドを見ました。
また、ベラスケスやゴヤ等の絵で有名なプラド美術館、ピカソのゲルニカが展示してあるプラド別館、アルタミーラの洞窟壁画のレプリカのある国立考古学博物館、そして、エル・グレコの最高傑作「オルガス伯爵の埋葬」がある、サント・トメー教会、緑の庭のオアシスとして世界的に有名なアルハンブラ宮殿と、盛り沢山の有意義なツアーでした。
ラマンチャを訪ねて
ラマンチャという地名を聞くと、ミュージカル「ラマンチャの男」を思い出す。ここは「ドン・キホーテ」の生まれ故郷でもある。遠藤先生は主にこの地で、美しい作品を制作し続けており、今回のツアーではその制作現場を訪ねてみた。
赤茶けた土にオリーブやブドウが植えてある。この地方の風景が最もスペインらしいと言っていい。人口密度もスペインで最も低く、過疎の地を羊の群れが移動する。家の壁は暑さを防ぐためか白く塗られており、集落が広い地平線のあちこちに点在して見える。ラ・マンチャとはアラビア語でManxa、乾燥した土地という意味だ。
いくつかの村を回ってみてまず気付くことは、どの村にもその中心に位置する場所に大きな教会があるということだ。決して贅沢な作りではない。村の人達が何年もかけて石を積み、土をもったものだと分かる。そしてそこには、老人ばかりではなく若者も、子供たちもが集まる。神様もキリストも、彼等の生活の同じ空間にいるようだ。
顔を見れば、どの顔もとても無邪気で純粋である。カメラを向けても悪びれず、はにかむ様子は我々の国ではもう見られない仕草である。
ラマンチャも5月~6月は花が咲く。地面を真っ赤に染める花がアマポーラ。フラメンコや闘牛が好きな国にふさわしい情熱の色である。
そして少し遅れて咲くヒマワリの花。場所によっては地平線の彼方まで、どこを見渡しても360度真っ黄色である。昼間は大地が黄色に変わり、太陽の向きを追って花の首だけが気だるく動く。
スペインは光と影の国と言われるように、何につけても極端だ。真っ青な空に赤い大地。真っ白な壁と真っ黄色なヒマワリ、激しい情熱と静かで深い信仰心‥‥ こんな国だからこそ多くの天才画家が生まれ得たのかもしれない。ベラスケス、グレコ、ゴヤ、今世紀にはピカソ、ミロ、ダリなどの時代をリードした天才が出現している。
芸術に欠かせないもの、それは情熱、そしてもう一つは深い信仰心であると思う。この国にはそのどちらもがあったのだ。 スペインの広い大地は、どこまでも広い心で我々を楽しませ、勇気付けてくれるようであった。