2012年7月9日
渋谷東急Bunkamuraザ・ミュージアムに、歴史的な一枚の名画がやってきた。
レオナルド・ダ・ヴィンチの「ほつれ髪の女」という小さな絵である。あのモナリザが持つ永遠の微笑みとまったく同じ、慈愛に満ちたその口元、そして、静かで清楚なまなざしは、聖なるものを見つめる深い愛を感じずにはおれない。
ダ・ヴィンチは、幼少の頃からあまり家庭環境に恵まれず、父母の愛を知ることなく育っている。家にいるよりも自然の中に神の愛を求めたのか、小川の傍らに座り水の流れを観察し、林の中で木洩れ日を浴びながら鳥や昆虫を観察した。
人間の心は、一人で愛を育てることはできない。
本来は、家庭の中で父母や兄弟、祖父母などに取り囲まれて、心の愛の構造を築いて行く。それが、拡大されて友情や博愛へと発展していくのである。
しかし、心の育つ最初の環境である家庭においてそれが望めなければ、心の本能によるものなのか、大自然の中にある愛を求めて山河をさまようのである。
イエス・キリストや釈尊など、多くの悟りを開いた聖者たちが真実の愛を求めて出家したのもそのためだろう。大自然の中には、汚れなき神の愛がある。純粋な心の絆を結ぶ宇宙の聖なる力がみなぎっているのである。
ダ・ヴィンチの絵には、身悶えしながらも永遠なる神の聖心を求めた人間の悲哀と、神の聖光ともいうべき穏やかで上品な真実の愛の輝きを感じる。
数多の画家たちの中で、ダ・ヴィンチが描く絵画が最も崇高な位置に立てられるゆえんは、彼が到達した精神の清さと聖なる愛の深みであろう。
改めて真の芸術の何たるかを見ることができた。一枚の絵画が持つ宇宙的愛の価値と永遠の美しさである。